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大阪地方裁判所 平成3年(ヨ)1114号 決定

債権者

中村二郎

水船豊

西村雅芳

右三名代理人弁護士

水嶋晃

寺崎昭義

町田正男

債務者

西日本旅客鉄道労働組合

右代表者中央執行委員長

大松益生

右代理人弁護士

相馬達雄

主文

一  債務者は、その平成三年四月一七日付で招集した別紙会議目録記載の臨時中央委員会で、同目録記載の予定議事(1)の議題についての決議をしてはならない。

二  債権者らのその余の申立てを却下する。

三  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一申立て

一債務者が平成三年四月一七日付で招集した別紙会議目録記載の臨時中央委員会で、同目録記載の予定議事(1)の議題についての審議及び決議をしてはならない。

第二当裁判所の判断

一本件疎明資料及び審尋の経過によれば以下の事実が疎明される。

1  債務者は略称JR西労組といい、申立外西日本旅客鉄道株式会社(略称JR西日本会社)及び関連企業に雇用されている者ら約三万三七〇〇名で組織され、組合員の労働条件の維持・改善、西日本旅客鉄道事業ならびに関連事業の健全な発展などを目的とする単一労働組合である。

債権者らはいずれも債務者所属の組合員であり、かつ中央委員である。

2  平成三年二月一九日開催された債務者の第九回定期中央委員会は、JR総連との断絶問題で議事冒頭から紛糾し休会とされた。同年三月三〇日午前九時大阪リバーサイドホテル六階ホールにおいて開催された再開中央委員会は、五六名の中央委員全員が出席したが、中央委員会を構成する中央本部役員一六名中羽淵中央書記長が前回の平成三年二月一九日同様病気入院中であり、また前回退席した五名の中央執行委員が右再開招集の違法性・JR総連問題に対する議長の不公正さ等を主張し出席を拒否したため、中央本部役員の定足数(一六名の三分の二以上すなわち一一名)に一名不足し、中央委員会として成立しなかった。

3  その直後の午前一〇時二〇分過ぎ、同ホテル七階会議室において、中央委員会を構成する中央本部役員のうち当日出席していた一〇名と中央委員のうち三九名が参加して、規約上は存在しない「中央委員による緊急代議員会」(以下「中央委員代議員会」という。)を仮に設置・開催し、春闘の賃上げ要求決議・組合会計の暫定予算編制決議等の緊急案件とともに、JR総連問題につき左記の決議をし、同時に前記一〇名の中央本部役員をもって「暫定中央執行委員会」を組織し、同委員会に緊急案件の措置をさせること等を決議した。

① JR総連主催の諸機関・諸活動に参加しない。

② JR西労組主催の諸機関・諸活動にJR総連役員等を招請しない・参加を拒否する。

③ JR総連会費の納入を凍結する。

4  債務者代表者大松益生中央執行委員長は右決議に基づき、JR総連に対しJR西労組とJR総連との関係を断絶する通知をなし、債務者内部の各地方本部等に対しても右決議の執行を要請した(〈書証番号略〉)。

5  平成三年四月一七日、中央委員二三名の開催要求により、別紙会議目録記載の臨時中央委員会が招集され、同目録記載の予定議事(1)には「JR総連との断絶」についてが掲げられている。

二「JR総連との断絶」についての決議について

以上疎明された事実によれば、債務者が企図し、かつ執行しようとしていることは、「JR総連との関係断絶」という名のもとに、JR総連からの脱退ないしそれと実質的に同じことを実現しようとしているものと判断される。

JR西労組規約一九条7項(6)によれば、「上部団体からの脱退」ないしその実質をもつようなことは、中央本部大会(以下「大会」という。)のみにおいて決議しうることであるから、規約にない「中央委員代議員会」はもちろん、仮に正規の中央委員会においてJR総連からの脱退ないしそれと実質的に同じことが決議され、その決議が執行されるとすれば、大会の決議がないのにこれを実現することとなり、大会の決議に基づいてのみ執行しうることをいわば先取りすることにほかならず、規約上許されない。

よって、別紙会議目録記載の臨時中央委員会において「JR総連との断絶」の決議をしてもそれは無効と解されるが、右決議がなされれば、それに基づき大会決議を先取りするような執行がなされるおそれが高く、事後的救済手続のみでは事態の混乱の回避には不十分であることは、本件では十分に疎明されるので、本件では特に、別紙会議目録記載の臨時中央委員会において同目録記載の予定議事(1)の議題についての決議を事前に差し止める必要性がある。

三「JR総連との断絶」についての審議について

しかし、右議題は、中央委員会の開催請求に必要な中央委員の三分の一をはるかに越える二三名の請求により議題とされたものであり、将来の大会における討議に備えることなどのために予めこの問題につき審議すること自体は規約に触れるものではなく、また審議すること自体によって何らかの法律関係が形成されるものではないので、右審議自体を差し止める必要性は認めることができない。

四結論

以上、本件仮処分命令の申立ては主文記載の限度で理由があるので、事案の性質上担保を立てさせないでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを却下し、申立費用の負担につき民事保全法七条、民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官岨野悌介 裁判官大段亨 裁判官水谷美穂子)

別紙会議目録

機関会議名 JR西労組臨時中央委員会

招集者 JR西労組中央執行委員長大松益生

請求者 中央委員二三名

予定議事 (1)「JR総連との断絶」について

(2)「暫定予算」について

(3)その他

開催日時 平成三年四月二三日午後一時三〇分〜午後五時

開催場所 大阪リバーサイドホテル六階会議室

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